第12話「兄弟」

【僕たちは母を介護する】-12「兄弟」 僕たちは母を介護する
【僕たちは母を介護する】-12「兄弟」

静かに部屋を出た。
あまりの変動に頭の整理がつかない。
弟と控室に戻るそのとき、廊下で三男とあった。

「おぉ、お疲れ」私が声をかけると
「お、おぉ」と三男が返事をした。
三男の隣には奥さんの姿があった。
奥さんとも挨拶を交わし、控室にはいった。

内容を簡潔に二人に説明した。

三男は体調があまり良くない。しかし、これは今回の母の件を聞いてのことではなかった。昔から身体が弱い。その原因の一つは心の問題ではないかと私は思っていた。
私の話を聞きながら時折、「おぉ」「うんうん」と頷き聞いている姿だったが、どう感じているかわからない。
私は必要な要点はきちん説明し、今日のところは帰ろうと伝え部屋を出た。

その時、女性の看護師さんに声をかけられた。
入院における手続きをするとのことだ。
一通り話を聞いて、承諾書にサインをした。
そして用意しなければならない備品の一覧も手渡された。
フェイスタオルにバスタオル・・・
介護用のコップにシャンプー、歯ブラシセットにスプーンセットまである。
タオルはなんとなくわかったが、歯ブラシなどがすぐに使える状況なのだろうか。
リハビリ用のシューズまである。
入院時の事務的な書類なのだろう。
すぐに必要なのかと疑問を持ったが、リハビリがすぐできるものと期待し、特に質問することなく、「明日持ってきます」とだけ伝えた。

駐車場で三男夫婦と別れた。
次男は救急車で来たので、私が送ることにした。
帰りの車の中、弟はすごく落ち込んでいた。
自責の念にとらわれている。
嗚咽し、繰り返し自分を責めているようだった。
自分がした言動に「なんで俺はこうなんだ」と責めている。
私は黙って聞いていた。

私は逆に冷静だった。
起きた事が、今までにない事だったからだろうか。
前の後悔や、先の不安は一切なく、現時点で起きていることと、やらなければならないことに集中していた。

弟が落ち着いたところで、予定を伝えた。
「俺はお前を送ったあと、必要なものを買いに行くよ。家にあるもので使えるものもあるだろうけど、新しいものを揃える」
「うん」
「明日は2時半から面会だから、1時半に迎えに行くよ」
「わかった」

弟は運転はできるが、自分の活動範囲以外の運転ができない。
昔はできていたのだが、近年できなくなったらしい。
そのため、家から30分以上かかる病院へ行くことは難しい。
ただ、私の家はさらに離れているが、少し寄り道になるくらいなので、弟を乗せていくことはそれほど苦にもならなかった。