第55話「不安爆発」

僕たちは母を介護する

私は自宅に戻り、今日あったストーマ訓練とケアマネージャーとの話を弟(次男)に報告するためメールに書いた。
結局、弟は来なかった。そのため、内容を知らせておく必要がある。
私ひとりが抱え込むことではない。
今までも私が御袋の件で行動したことや聞いた内容は、すべてメールしてきた。
内容はわかりやすく簡潔に箇条書きで書いてきた。
しかし今日の内容はかなりのボリュームで、文字数にすると1200文字だ。
400字詰め原稿用紙にすると3枚分。
仕事柄、文章を書くのは苦ではないが、読む方は大変かもしれない。
読み直し、修正をしたが必要なことを記載しているので、そのまま送信することにした。

メールを送信した翌日の午前中、弟から「了解」の返信がきた。
するとその30分後に電話がかかってきた。
仕事中だったが、席を外し電話にでた。

「どうした」
「母に電話したら、声も小さく元気がなかった。大丈夫なのか」
「あぁ、今は大丈夫だよ。なぜ電話したんだ?」
「昨日、叔母が母に電話したところ、男の人がでたらしく気になってかけた。話を聞くて、最近は食事も減っているとのことだが大丈夫なのか」

体調が悪かったことは報告していなかった。
知り得た情報はメールをするようにしていたが、それ以上の内容が多いため、うっかり埋もれていた。
病院の診断も異状なしだったため、私の意識から抜けていた。
「先日、夜中に体調不良になって、点滴を2日前までしていたみたいだ。そのため体力が落ち、元気がなかったのだろう。病院では検査を行ったが、異常はなく、原因不明ということだった。そのため点滴の期間は食事はしておらず、現在は少量の食事なんだろう」
「入浴も車いすで行われているらしい」
「そうだな」

『こいつは見舞いに行っていないな』心の中でそうつぶやいた。
御袋の状態では入浴は難しい。シャワーチェアーなどを利用しているに違いない。見舞いに行っていたらどのような状態かわかるはずだが、そこは黙っていた。
すると弟は信じられないことを言ってきた。

「こんな状態では、帰ってきても面倒はみられない。正直、今は仕事がいっぱいいっぱいで、これ以上負担がかかると借金の返済も厳しいんだよ。今から4ヶ月先までは忙しいし、今年はできない作物もある」
「うん、それで」
「なんとか、施設に入れてもらえないのか。または兄貴の家に住んでもらうことはできないか」

あまりの自分勝手な発言と思ったが、電話でもあり、仕事中でもあったので簡潔に答えることにした。
「昨日送ったメールのとおり、今は在宅介護に向けての計画をしているところなんだよ。施設というが、ただではない。お金がかかるんだよ」
そう言うと
「お金の問題ではない」
かなり感情的な言い方だ。

しかし自分の話に矛盾があることを弟はわかっていないようだ。
 ・借金返済で稼がないといけない
 ・そのために介護の時間がない
 ・だから施設に預けたい
 ・でも施設に入れるとお金がかかる
 ・さらにお金(借金増)が必要になる
 ・そのため可能な限りいろいろなサービスを検討し、時間とお金を工夫して行う必要があるはず

私はそう考えていたが、自分のことで一杯のため、そのような考えにならな  いと思われる。
また、元々そのような思考(生き方)のため、これ以上議論するのは無理のようだ。

「病院の相談員には、御袋が退院し在宅となっても一人暮らしと同じようなものということは伝えている。また、施設も決定ではないが一応キープはしている。ただし、ケアマネージャーには伝えていないため、また相談して みるよ」
それだけを伝え電話を切った。

そして翌日。

「寝不足で不安が大きくなり、言わないでいいことを言ってしまった」
そう連絡があった。
私は、
「俺もわからなことだらけだが、お前は特に同居して介護することになるのだから不安も多いだろう。だから事務的な事や、病院とのやり取りは俺がやっている。これからも協力してやっていこう」
そう伝えた。

しかし、その時の私は、弟の仕事が大変だという事は理解していたが、介護もできないことに気づいていなかった。