第60話「退院③」

僕たちは母を介護する

「これは介護支援専門員宛ての封筒です。そのままお渡しください。あと、こちらは看護指示書です。訪問看護事業所へお渡しください。そして、これはお薬です。説明書と一緒にお渡しします。これは退院証明書で、退院後3か月以内に当院以外で診療されることがあれば持って行ってください」
「わかりました」
「あと、これは病院で使っていた先週と今週の献立表です。食事の参考としてよかったら使ってください」
「ありがとうございます」
食事はヘルパーさんに頼むつもりだが、あると便利だろう。
もらった書類もバッグに入れ、病室を出た。

病院の玄関まで来たとき、「車を持ってこられますか」と言われ、取りに行った。
車を病院の玄関に横付けし、看護師と介護士が御袋を車に乗せる様子をしっかりと見ていた。
私は、高齢者、要介護者の車いすを押したり、要介護者を乗せた車を運転した経験があるが、介助をしたことはない。
もちろん介護士などの動きは見ていたことはあるが、その経験はなかった。

しかし私は、なぜかやったことがない事でも、見たことがあれば上手でなくても、こなせるというか、それなりにではあるがすぐに出来ることが多かった。

ただ御袋はストーマだけでなく、尿パッドも装着している。
これはぶら下げている状態なので、注意が必要に思えた。
あと、右足の膝を曲げる時、とても痛いようだ。
『なるほど』
二人の動作を頭に入れ、車から降りるときはこの逆にすればいいんだなと理解した。

車いすは半分に折りたためるが、それでも大きい。
でも、後部座席にちゃんと入った。
運転席に乗り込み、御袋のシートベルトのロックを確認してから
「お世話になりました」
そう言って、車の中から介助してくれた二人に礼を言った。
二人は御袋に向かった手を振り、御袋もそれに返して手を振った。

5か月間におよぶ入院生活がようやく終わった。