時間通りに病院についた。
受付に声をかけると相談員が来て一緒に病室へ向かった。
今日はストーマの取り外しから装着までの一連の流れを行う。
弟に今日のスケジュールを伝えたが、来なかった。
結局私一人が訓練することになったが、今日覚えて教えればいいだろうと思い、深く考えなかった。
病室に入ると、御袋は服を着たままだった。
「やっと帰れるね」
そう声をかけると
「うん」
と小さな声で返事をした。
看護師が来て、
「それではやってみましょうか」
と言ったので
「はい」
と答え、まずゴム手袋をつけた。
そして、〔剥離剤〕を手にとった。
〔剥離剤〕は5センチの正方形の袋に入っている。
弁当などについているおしぼりのようなものだ。
腹部に付いているストーマの粘着部分を少しめくりながら、やさしく〔剥離剤〕でなぞると、粘着がなくなり皮膚から簡単に外れた。
外したストーマはビニール袋にいれ、人工肛門をティッシュペーパーで綺麗にした。
ここで、入浴をするというので人工肛門にティッシュをあてて、御袋は車いすに座り、介護士と浴室へ向かった。
「難しくなかったでしょう」
「そうですね。思ったより簡単でした」
「次は装着しますが、少し時間があるので・・・ここで待たれますか」
「どれくらいかかるでしょうか」
「そうですね。1時間もかからないと思います。40分くらいでしょうか」
「そうですか。それでは入院費の精算をしてきます」
「わかりました」
受付に声をかけ、入院費について伝えた。
「ご連絡が遅くなってすいません」
受付の人がそう言って謝った。
遅くというか、前日だったが・・・まぁそれを言っても仕方ない。
「いいですよ、連絡で聞いた金額でよかったですか」
「はい大丈夫です」
そう言って、支払いを済ませた。
しかし、まだ時間がある。病室に行っても仕方ないと思い、車の中でゆっくりすることにした。
時間より少し早く病室に行った。
まだ戻ってきていない。
窓の外を眺めていたら戻ってきた。
「さっぱりしたかい」
御袋に声をかけると
「うん、さっぱりした」
そう言ってほほ笑んだ。
介護士が御袋をベッドに寝かせたあと、看護師が
「それでははじめましょうか」
と言ったので、私はストーマを箱から取り出した。
装着は前回のときに一度行っている。
ストーマの円状の柔らかいプラスチックに開いている穴を、人工肛門のサイズに合わせて切りとり、装着した。
文字にすると簡単だし、実際に作業はそれほど難しくない。
しかし、取り外し、清拭、装着の一連を時間にすると15分から20分はかかりそうだ。
「大丈夫ですね」
「はい、なんとかできそうです。ところで、ストーマはどれくらいで交換するものでしょうか」
「そうですね。ここでは週2回お風呂に入る時に交換していましたが、1週間に1回でも大丈夫ですよ。入浴したりして外れやすくなることもありますので、お風呂に入るタイミングなどで交換されるといいと思います」
デイサービスで入浴をすればその時交換してもらえばいい。
『家で交換することは、あまりないかもしれないな』
心の中でつぶやいた。
ストーマ交換の訓練が終わり、退院の準備を始めた。
タオルやコップなど、自分のものを適当にバッグに詰め込んだ。
介護士も手伝ってくれたが、そんなに多くはないのですぐに終わった。
「帰りはおうちの車ですか」
「はい、私の車に乗せます。軽乗用車で小さいですが大丈夫でしょうか」
「大丈夫だと思いますよ」
転院してきたときのようにストレッチャーで寝たきりなら難しいだろうが、車いすに座れるのだから大丈夫とは思っていた。
準備が終わり、看護師が車いすに御袋を乗せ終わると書類を手渡された。