第58話「退院①」

僕たちは母を介護する

御袋が退院する日になった。
5ヵ月ぶりに自宅(実家)へ帰ってくる。
私はそう思いながらゆっくりと朝食をとり、スケジュールの確認した。

9時半過ぎに実家へ電動ベッドが搬入される。
退院の時間は14時半だが、最後のストーマ訓練をすると言われていたので、13時に病院へ行かないといけない。
病院から実家までは20分くらい。
御袋が帰宅して片付けなど、長くても16時には終わるだろう。
そんなことを考えながら、食事を終えた。

時間どおりに実家に着くと、同じごろにケアマネジャーがやってきた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
挨拶を交わしていると、大きなバンが入ってきた。
介護用品を取り扱う業者のようだ。
名刺を受け取り、ベッドの搬入が始まった。

電動ベッドはバラバラに分解されているものを部屋で組み立てるものだ。
モーターのついているパーツは重いのでケアマネジャーと業者の二人で運びこんだが、軽いものは私も手伝って部屋にいれた。
あとは、組み立てるだけで作業時間としては15分程度で終わった。

介護用品の業者の人が取扱いについて説明した。
と言ってもそれほど難しいものではない。
説明が終わると、ケアマネジャーが話しかけてきた。
「マットの上に何か敷かれるといいですね」
私はその意味を察し、
「そうですね。汚れたりしたらいけないから、シートか何か敷けばいいですか」
「ホームセンターやドラッグストアに売っているのでいいと思いますよ。電動ベッドはレンタルですので、汚れたら後が大変ですから」
「わかりました」
退院までに買ってくればいいだろう。時間はある。

「それと、シャワーチェアーはどうしますか」
「そうですね。どういうのがあるのですか」
「いろいろありますね。これとかがいいと思いますが」
ケアマネジャーはそう言いながら私にカタログを見せた。
しかし、どういいのかわからない。
というか、値段に驚いた。
「高いんですね、これもレンタルですか」
「いえ、これは買取になります。でも介護保険が使えるので大丈夫ですよ。それと、風呂場に手すりなどいりますか」
「そうですね。あると安全ですよね」
そう言って、ケアマネジャーは介護用品業者と風呂場を確認していた。
「介護保険が使えますが、少し自己負担もあると思います。見積りを作ったら持ってきますね」
「わかりました」
「あ、お母さんは何時ごろ退院でしたか」
「14時半の予定です」
「そうですか、ではその時間にまた来ます」
そう言って二人は出ていき、私も実家を出た。

時間は10時半になっていた。
13時に病院へ行くとして、昼ご飯で休憩しても1時間半はある。
私は車を運転しながら、ドラッグストアに入った。
介護用品を購入するのは、入院の時以来だ。
場所は分かっているので、すぐに介護用品コーナーについた。
すると介護用ベッドの敷物があった。

「高い!」
2,500円もする。
そんなに買い替えるものではないだろうが、2枚買ったら5,000円だ。
少し考えた。
『時間はあるから、他の店も見てみるか』
そう思い、車を走らせると衣料品店が目に入った。
『ここにあるかな』
車を停めて中に入った。

寝具売り場かなと目星をつけて進むと介護用の敷物があった。
しかも安い。
さっきの半値近い。
素材や性能の違いなのかなと思ったが、初めてのことなのでまずはこれにした。
買いたいものが見つかって安心したので、昼ご飯を買い近くの公園の駐車場に車を停めた。
今日は天気がよく、心地良い風が吹いている。
桜の花はまだ早いが、青い空がとても綺麗だ。
景色を見ながら昼食を済ませた私は、
「よしっ」と気合を入れ、病院へ向かうことにした。