第26話「一般病棟」

僕たちは母を介護する

《13日目》

9時22分
病院の事務から電話がかかってきた。
「今日の11時に一般病棟に移ります」
「はい、わかりました」
「面会のことと、入院で準備していただきたいものをお伝えします」
事務的な話し方だが内容は以下のとおりだった。

〇面会
 ・感染症対策により面会規制があること
 ・面会は週1回で、面会者は2名
 ・面会者は固定される
 ・面会時間は14時から16時の間の15分間
〔面会者は固定される?〕一瞬疑問に思ったが、複数の人が入ると感染がどこから来たのかを判別しにくいからだろうと悟った。

〇準備するもの
 タオル、イヤホン、テレビカード代、パジャマ、携帯電話と充電器

聞きながらメモをし「本日面会は可能ですか」と尋ねた。
「大丈夫です。何時にこられますか」
「15時にいけます」
「わかりました」
電話を切って、すぐ弟たちに電話した。
次男も三男も了解したが、三男は面会できない代わりにお守りを渡したいの
で、面会前に駐車場で会えるか聞いてきた。
私は「了解」と言って、準備をすることにした。

14時30分
病院の駐車場についた。
ほどなくして三男夫婦も到着した。
白い紙の包みにはいったお守りを「これを」と言って渡された。
「うん、御袋に渡すよ」と伝え、三男夫婦と別れた。

一般病棟のある階の受付でサインして待った。
15時00分
看護師から呼ばれて、部屋まで案内された。
一般病棟とはいえ部屋は個室だった。
ここに来る前、次男が言っていたことを思い出す。
「母は他人と同じ部屋なのは嫌うからな・・」
それはどうしようもないことだと私は思っていたので、その時は相槌だけしていたが、個室で内心ホッとした。

見ると酸素マスクはつけていないようだ。
血圧をみると正常の範囲だ。
私たちはマスクを着けているのでわからないかもしれなかったが、笑顔で話しかけた。
「どんな感じかな」
「んーダメかと思った」
小さすぎる声だったのではっきり分からなかったが、御袋には珍しく気弱な発言だったので、
「今こんな状態だけど、かなり回復したよ」
と伝えた。
ゆっくりと話を聞くと
「日にちの感覚がなく、今は12月(実際は10月)と思った」
「お茶を少し飲んだ」
「入院費は大丈夫?」
このほかに
「夕べ、(家の)猫が足元に来た」
長期入院(睡眠)のためか幻覚と夢の区別がつかないらしい。
「そっか。うちの猫も心配してるよ」
と次男が話しかけた。

時間になり三男は面会ができないことを伝え、代わりにこれを預かったと言って、お守りをベッドの手すりに結び付けた。
「また来るね」
そう言って手を振ると、御袋も少し腕を上げた。

準備してきたものを看護師にあずけ、病院を後にした。
次男もかなり元気になってきたようだ。