A病院まで30㎞くらい、時間にして40分。
私はA病院には一度行ったことがあった。
それでもナビを確認したのは、最短距離で行こうと思ったからだ。
途中、ナビは私が想像していた道とは違うコースを指示したが、迷わずそれに従って走らせた。
草刈り作業の時、晴天ではなかったがそれでも少し太陽の光があった。
しかし、今は曇り空。
余計なことは考えないようにしようと思っても、気にしてしまう。
(大丈夫、大丈夫)
そう自分に言い聞かせて、ようやくA病院についた。
すると救急車が出て行った。
サイレンを鳴らしていないので救急搬送ではないだろう。
車体の側面に見慣れた地区の消防本部名が書かれていた。
『あれは母を乗せてきた救急車か?』
違うかもしれないが、この病院で間違いないことを確信しようとしていた。
A病院はとても大きな病院だ。
今日は日曜日なので、駐車している車は少ない。
病院の入り口に一番近いところに駐車した。
慌てることなく、普通の足取りで病院に入った。
『救急搬送されるところはどこだろう』
誰も居ないので聞くこともできない。
すると、弟が電話している姿が見えた。
私はこの病院で間違いないことを少し安心しながら、弟の傍にある5人掛けの背もたれ付き長椅子に座った。
弟は電話を済ませ、私に話しかけてきた。
「弟[三男]に電話していた」
私は長男で、実家に住んでいない。実家に住んでいるのは母を病院へ連れて行った次男、三男も別のところに住んでいる。
私はそれに頷き、「それで今はどんな状態?」と聞いた。
「まだわからない、救急車で到着したのはさっき」
「そうか、さっき俺も救急車は見た」
そう話しながら、弟は一つ席を空けて座った。
「突然悪くなったのか?」
ここまでの経緯を聞くために話しかけた。