第40話「転院①」

僕たちは母を介護する

御袋がこの病院に入院して45日目。
あっという間だったが、いろいろな事があった。
そんな事を思いながら、病院に着いた。
完全回復で退院なら、大きな花束で祝うところだ。
しかし、まだこれから。
そう気を引き締めて、病棟に向かった。

着くと、ストーマ業者の方が来られていた。
名刺をもらうと、肩書は営業だった。
会社名も全く知らない。
大きな会社なんだろうけど、世の中にはたくさん知らない会社がある、知らなくて当然だ。
彼はストーマのパンフレットを私たちに見せながら、いろいろ説明をしたが、全く頭に入らない。
ストーマを見たのも動画で1回と御袋の交換作業の計2回だ。
一通り説明されて、
「いかかがされますか」
と問われた。
「お恥ずかしい話でが、初めてのことでまったくわかりません。最初はお願いしてよろしいですか」
そう伝えた。
「そうですよね。わかります。では、こちらで手配しておきます。身体障害者手帳は申請中なんですよね」
「はい」
「よかったです。できたらご連絡ください。給付金で取り扱えるように手配いたします」
「ありがとうございます」
そう言って、およそ20分程度で打ち合わせは終わった。

待合室で待っていると、看護師が来た。
「今、準備しています。もう少しかかりますので、支払手続きをされますか」
「わかりました」
そう言って、私は会計に向かった。

支払が終わり、待合室に戻るとまた看護師が来た。
「こちらの書類にサインをしてもらえますか」
「はい」
転院するのも簡単にはいかないだろうが、書類がたくさんだ。
読みながらサインをしていると、ストレッチャーに寝かされた御袋が運ばれてきた。
時計を見ると、そろそろ出発しないといけない時間だ。
しかし、書類はまだ書き終わっていない。
「先に福祉タクシーへお連れします」
看護師がそう言って、
「誰が同乗されますか」
と言った。
私は次男に声をかけ、次男は御袋に付き添って福祉タクシーへ向かった。

サインが終わり、転院先に渡す封書を受領した。
とても慌ただしい退院だ。
忘れ物など確認する時間もないが、私たちは病室に入ってないので確認のしようがない。それにそんなに物はないだろう。

「お世話になりました」
そう頭をさげて、病院を後にした。