第39話「転院前日」

僕たちは母を介護する

ストーマの交換作業を見学した翌日、病院から電話が入った。
仕事中だったが、今ではすぐにでるようにしている。
メモを持って部屋を出た。

「転院先が決まりしました」
「そうですか、どちらですか」
「近くのD病院ともう一つの病院は無理でした。C病院になります。少し距離がありますけど大丈夫ですか」
「大丈夫です。同じ区域内なのでそんなに遠くないので」
「わかりました。転院日も決まりました」
「そうなんですか、いつですか」
「来週の火曜日です」
「え!?そうなんですか」

驚いた。来週の火曜日といえば、5日後だ。おもわず
「すごい・・・急なんですね」
と言うと
「はい、向こうの受入体制もあるため、急ですがよろしくお願いします」
どうこう言えることでもない。
「わかりました」
と伝えると
「D病院までどのようにして行かれますか」
と聞かれた。

御袋は寝たきりだ。毎度のことだが何故このような聞き方をするのだろうかと思った。うちに救急車があるとでも思っているのだろうか。
「乗用車の助手席に座らせることは可能でしょうか」
そう質問すると、
「いえ難しいですね。車いすには乗れますが、乗り降りは難しいです。福祉タクシーを準備されますか」
福祉タクシーの存在は知っている。しかし、知り合いはいない。調べればわかるが、病院が知っているだろうと思い、
「どこか紹介してもらえるところがありますか」
と尋ねると
「わかりました。こちらの方で手配しておきますね」
と言ってくれた。

電話を切ったあと、弟たちにも聞いた内容を連絡した。
転院の日の行動について、次男は当然だが、三男も「わかった」と言った。
皆で行動すれば少しは楽だろう。


《転院の前日》

病院から電話がかかってきた。
一つは、明日の退院において、入院費の精算を行ってほしいとのことだった。
(きたか・・・)
思わず心でつぶやいた。
もちろん支払わなければならない。
ただし、大きな手術だ。
いったいどれくらいなんだろうか。
そう思って「どれくらいでしょうか」と尋ねた。
伝えられた金額を聞くと、そこまで高くなかったので驚き安心した。
「わかりました」
と伝えた。続いて

「明日、ストーマの業者との打ち合わせもあるので、少し早めに来れますか」
(また、ギリギリだな)
と思った。
「何時ごろに行けばいいですか」
「退院時間より1時間早くきてもらえますか」
「わかりました」
と伝えた。
(午前中は仕事して、午後から転院対応しようと思ったが・・・)
そう思いながらも、弟たちに時間と内容を連絡した。

その後、病院からまた連絡がきた。
(まだ何かあるのかな)
そう思いながら出ると担当医だった。
「明日、転院ですね。私は不在なのでご連絡差し上げました」
「そうなんですか。先生には大変お世話になりました」
「いえ、ご家族も大変でしたね。面会に結構来られたので、すごいなと思っていました」
「ありがとうございます」
「ご本人の頑張り次第で、C病院での入院期間が変わると思います。点滴や、尿のカテーテルなどで感染等が今後考えられますが、その他の臓器(心臓や肺)については正常です。」
「よかった」
「はい、回復に数か月から半年と、期間はわからないが、長期間になるかもしれません。地道に取り組むしかないと思います。」
「はい」
「C病院を退院されたら、当院へ予約して外来診療をしてください。その時に、人工肛門を閉じるか、判断していきます」
「わかりました。本当にありがとうございました」
人工肛門を閉じて、直腸につなげることもできることは、以前にも聞いていた。
改めて、先生がその希望を伝えてくれた。
心から感謝して、電話を切った。