第6話「驚愕と平静」

【僕たちは母を介護する】-6「驚愕と平静」 僕たちは母を介護する
【僕たちは母を介護する】-6「驚愕と平静」

先生が椅子に座り、挨拶をされた。
とても若い先生だ。
時間のせいだろうか、疲れが少し見られるように感じた。
夜勤だったのかもしれない。
そんな観察ができるほど、私の心は落ち着いていた。
その落ち着いた心と反し、頭の中では先生の次の言葉は「食あたりですね」とか「少し冷えたんでしょうかね」といった言葉が発せられることをイメージしていた。
私の悪い癖だ。
まだ何も言われていないこと起きていないことを不安にならないために、先に想像してします。
実際、私はまだ母に会っていない。
どんな具合なのか全然わからない。
そして先生がモニターを見ながら落ち着いた様子で話し始めたので、妄想を消した。

「非常に危険な状態です」
先生の最初の言葉にどんな感じで危険なのかと、危険の意味を理解できないほど驚いた。
「どのような状態ですか」
ところが不思議と一瞬で頭が冷静になったので先生に尋ねた。
「あまり時間がありません。発症からの今までの経過についてお伺いできますか」
この質問に弟が答えた。
「昨夜11時頃、母が突然『お腹が痛い』と苦しみだしました。昨夜の夕食であたったのかと思いましたが、痛みが激しいようなので近くのC病院へ連れて行きました。」
「C病院ではどのような診療を」
「専門の先生がいないとのことで、点滴をしていました。朝8時に先生が来られて、こちらに来ることになりました」
弟もしっかりとした答えをおこなった。

そして話を聞いていた先生が痛みの原因を伝える。